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西アフリカの砂金計量用スプーン
スプーンは札幌の新居に飾られている。手前には同じくアフリカの動物や鳥のオブジェ。3羽の鳥はすべて別々な場所で見つけたもの。「鳥の特徴を見事に捉えているでしょう」。
1994年に大阪から旭川に移住して、いちばん寂しかったのが、美しいデザインに触れる機会があまりにも少ないことでした。耐えられるだろうか、とさえ思ったほどです。そんな中、唯一の救いといっていいお店が、旭川の中心部、平和通買物公園にあるセレクトショップ「梅鳳堂」でした。オーナーのセンスがよく、食器やカトラリーなどの日用品から絵画、ファッションまでいいものを揃えており、関西にもないようなものも見られました。この店があったから、僕は大阪に戻らずに済んだのかもしれません。
「いいもの」とはなんでしょう。私の中の定義がいくつかあるのですが、主なものを5つあげると、
1 イミテーションでなく「本物」である。 2 機能的である(無用の用を含む)。 3 飽きのこない美しいデザイン。 4 見たり使うことで心が満たされときめく。 5 持っていることで自分に誇りが持てる。
こうした定義に基づいているため、織田コレクションはデパートにある美術工芸品とはまったく違う選び方になっているのです。
写真は、その梅鳳堂で7、8年前に見つけた西アフリカアカン系民族の真鍮のスプーン。15世紀から19世紀頃まで行われていた金の採掘に伴い、砂金を計る道具として分銅や天秤とともにつくられました。プリミティブな彫刻がほどこされ、造形的にも美しい品物です。織田コレクションには世界のモダンデザイン、有名デザイナー・メーカーの名作とともに、このような値段も希少性も関係なく私独自の価値観で集めたものが数多くあります。少数民族の祭礼用マスクなどがいい例で、身近な素材を使い、手加工で先祖代々伝わる造形に仕上げています。刻まれた線画などは、機能はなく、量産性も考えず、もちろん稼ぐためでもない、まさに無意識の美。日本の民藝に通じるものがあります。時間と手間がかかったこれらのものには、えも言われぬぬくもりや楽しさが宿ります。
アフリカや中近東、インドにはそうしたプリミティブなものに美しい造形が多く見られます。北欧も同じで、フィンランドのトナカイを追う男性などが持つ、「プーッコ」と呼ばれるナイフの持ち手はトナカイの角や骨でできていて、サーミ族のそれには家族だけの紋様が彫られていたりします。エスキモーのイヌイットも、鯨の歯やセイウチの牙で生活の道具をつくってきました。現代文明からちょっと離れたところにも、美しいものがたくさんあるのです。
私は2002年から23年暮らした北海道東神楽町の自邸を離れ、2025年秋に札幌市に移り住みました。引っ越しのためリビング壁面のプリント・原画アートを取り外したのですが、それだけで空間がとたんに味気ないものになり愕然としました。そこにはケアホルムやクリントの椅子があるにも関わらず、です。生活空間のクオリティを高めるのに、インテリアアクセサリーがいかに重要な存在なのかを、改めて思い知った出来事でした。
(2025/10/19・談)
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